秘伝の復元
本土南端、鹿児島県大隅半島。
亜熱帯と温帯の境界であるこの半島には、
豊かな照葉樹の森が広がります。
全国の植物の種の60%が生息するこの一帯は、
海のミネラルや湧き水が育てる、
豊かな野草・薬草の楽園となっています。
江戸後期、
学者で医者の小野原芳山(おのはら・ほうざん)はある日、
重宝していた黒糖を薬草に投入し、薬酒を造りました。
一年後、愛飲していた薬酒はいつしか酸っぱくなり、
酢に変質していました。
この酢を病人に飲ませたところ、めきめき回復し、
これに驚いた芳山は、
以後、露天壺発酵の薬草酢を造り、秘伝として残しました。
明治の世になって
薬草酢は西洋医学の波にのまれ、いつしか消えてしまいましたが、
母方の小野原家に代々口伝として残っていました。
子供のころ、
サヨ婆さまが言っていた言葉を思い出します。
「野草は神様からの贈物、
切られ、抜かれ、焼かれても、すぐに芽を出して伸びてくる。
へこたれない命、これををいただけば、長生きをするよ」
祖母は98歳の天寿を全うし、
病気知らずの生涯を終えました。
へこたれない命とは、自然の治癒力。
この治癒力をたっぷり含む、秘伝野草酢。
その隠し味を復活できないか。
2011年夏、
奄美・加計呂麻島を訪れ、
黒糖由来のきび酢を学びました。
また、
薬剤師の藤崎治久さん、獣医師の日高義隆さんたちが仲間になり、
古来、ふるさとに伝わる薬草を調査し、
今なお愛用し、病知らずの古老たちをヒアリングしました。
すると、
トメ婆さん(93歳)はハブソウを、
伝爺さんは(91歳)キランソウを煎じ、
サダ爺さん(89歳)はマムシの黒焼きを、
明爺さん(95歳)はくさっ菜を味噌汁に入れて食べていました。
ほとんどが薬とは無縁の、
治癒あふれる自然の恵みを愛用していたのです。
「体は自分で自分を治すよ」
このことを知ったとき、
植物本来のもつ生命回復力(Resilience)に注目しました。
そして、自然と一つになることで、
治癒の力(Healing Power)を引き出す、
黒糖発酵の世界を探求しました。
足掛け7年、
鹿児島県工業技術センターのご支援を受けながら、
2015年春、
幻の薬草酢が復元しました。
こうして誕生したのが、
美と健康を天然ハーブで結ぶ、
野草酢「神の草」です。