梅の葉さわさわ

梅の実たわたわ

紅葉　あかあか

藤は　しずしず

そんな朝、

コーヒーに元気な声がはじけた。

「こんにちは～。」

玄関に出ると、

若夫婦に娘二人が庭先にいた。

はて、誰だったか・・・。

「あのう、野草酢の家はこちらですか？」

そうか、

野草酢のお客さんか。

ときおり、

風のように来訪する客はいるが、

この家族はどこか違う。

まず、明るい。

次に、自然体。

その証拠に、

二人の娘はもう狩人に変身した。

庭先に落ちた梅を拾う姿は、

餌をあさるムジナそっくり。

あいさつが終わって数分後、

何ともう袋がいっぱいになっていた。

すると、

庭中を動き始めた。

「子供はこのようにほっとくと、自分で動きます。

　地鶏が餌を探すように。」

「古いですね。」

玄関の瓦に生える草をたたえた夫婦、

そのまま部屋に招いた。

すると、

子供たちが草を手にして入ってきた。

おう、これは・・・。

オオバコ

三つ葉

ユキノシタ

小さな本能は薬草をかぎつけ、

採っていた。

部屋に招いた家族、

マスクをしていた。

囲炉裏の灰に眠っている焼き芋。

二個を取り出し、

四つに分けて出した。

飲み物は湧き水。

すると、

家族はマスクを外し、

むさぼるようにほおばった。

先週採ったスイカズラ、

その香りが小さな本能を招いたかのように、

娘の一人が、表の間に走った。

野草酢が欲しいというご夫婦、

近くの工房に走った。

先週仕込んだ壺、

グツグツと発酵は続いている。

「さあ、どうぞ。」

耳をすます娘たち。

そこに聴こえるいのちの音、

それは２５億年前、

深海に誕生した細胞の鼓動。

ＤＮＡに記憶されたいのちの鎖は、

一瞬にして本能と反応し、

悠久の深海へと誘う。

「じつは娘がアレルギー体質で・・・」

その症状を治癒したのは、

ハーブだったという。

「さあ、海に行って釣りをするか」

そういうと、

家族は春風のように樹間に消えた。

十年後が予測できない時代の中、

大事なことは、

いかなる状況にも対応できる感性をもつこと。

それは本能のままに遊ぶこと。

それを静かに見守ること。

それは、

無為自然。

子供と薬草は家族、

そのことをあらためて知らされた子供の日。

ありがとね。