平家伝説の里、辺塚（へつか）。

美しい眇たる浜辺、

その山郷に自生する“辺塚ダイダイ”。

ビタミンをたっぷり含む果肉は、

自然ハーブ酢の仕込に欠かせない、逸品。

しかも、

野生ものが必須。

蝶よ花よと育てられた出荷用のダイダイには関心はない。

生と死を争う、

野生樹のいのちが欲しいのだ。

黒潮のミネラルが吹き巻く断崖の一角。

ここに、

半ば放棄された伝説の果樹園があります。

野草酢と引き換えに、

この果樹園の幸をいただきました。

施肥も剪定も中耕もない、

野生果樹の堂々たる姿。

周囲を竹の軍団に侵され、

樹上をクズにさえぎられ、

生死の掟に退かない果樹。

しかし、

戦友は力尽きて一本、

また一本と野辺に朽ちていきます。

先月、

周囲の竹を一掃し、

樹上の絞め殺しクズを除きました。

晩秋の夕日に染まるダイダイ、

なにか嬉しそうでした。

この日、

東京の姉と友人に贈るため、

果樹園を訪れました。

（オッ、すごい！）

半月前、

紅葉に吸い込まれるように黄ばみた葉。

春までもたないと思ったその病（わ）くら葉が一変し、

緑の精気をたたえているのです。

　「わしらは常在戦場、

　肥料も枝切りも望みませね。

　ただ、実を結ぶ光だけは・・・。」

見ると、

根元には光が差し込み、

潮風がミネラルのしぶきを贈っています。

樹上には枯れたクズの葉が垂れ、

ダイダイの実は涼しげに光っています。

冬。

光をたっぷり浴びた実は、

酸と甘が調和する、いのちあふれるフルーツに変身、

春のいのちをつなぐのです。

光はいのち。

来季も頼むよ。